
美しい縮毛矯正を施すには、お客様一人ひとりの髪質に合った薬剤を見極めるスキルが必要です。今回は美髪のための薬剤選定の方法を理論的に解説し、毛髪診断のコツやおすすめのレシピ構築も惜しみなくご紹介します。
美容学生や初心者の方はもちろん、もう一度おさらいをしたい中~上級者の方もぜひ参考になさってください。
薬剤パワーとは?

PHの数値と還元剤の強弱によって成り立っているのが薬剤のパワーです。ここからは縮毛矯正におけるPHと還元剤、さらにアルカリについてご紹介します。
PH
水素イオン指数のことで、還元剤としては「薬剤の膨潤度」がPHにあたります。
髪の毛が健やかにいられる領域は、等電点域といわれるPH4.5~5.5(弱酸性)。等電点域から外れてしまうと髪にとっては酸性であろうとアルカリ性であろうと負担になってしまいます。
還元剤
縮毛矯正剤やパーマ剤に含まれている還元剤は、髪の毛のSS結合を切る働きを担う物質。その働きにより髪の毛の形を変えることを可能にしています。SS結合を切った髪にアイロンの熱を与えることによって、ストレートに形成されるのです。
アルカリ
PHと還元剤によって成り立っている薬剤パワーですが、さらにアルカリのパワーによって、髪を膨潤させ薬剤を浸透しやすくしています。どのアルカリ剤を配合するかで髪への作用が変化するため、アルカリ剤の特性を理解することはとても大切です。最後の項で後述しますのでチェックしてください。
薬剤のバランスを整えることが要!

縮毛矯正やパーマで効果的に薬剤を使うコツは、髪質に合わせてPHと還元剤のバランスを整えることです。薬剤がぴったり髪質に適応するとアイロンワークが簡単なものになります。艶やかな髪にするためにも、毛髪診断をしたうえで薬剤を選びましょう。
毛髪診断のコツ

初心者・上級者関係なく、薬剤技術において最も大切なことは毛髪診断です。
毛髪診断の方法としては、まず髪をウェットにして透かしてみること。髪は濡らしてから透かすと本来のダメージレベルが必ず出てきます。
「PH目安簡易表」の色に応じてPHの薬剤を塗り20分置きますが、よほど傷んでいない限りは、薬剤だけで毛髪がひどく傷むということは少ないでしょう。
たとえPH目安簡易表で見て大丈夫そうでも、濡らしてテロテロとした質感になったり、弾力があまりにもなかったりする場合は、毛髪内の「シスチン」がかなり少なくなっている証です。その場合は行わないほうが安心でしょう。
ここで「縮毛矯正は等電点域でやればいいだけなのでは?」という疑問が出てくるかもしれませんが、それは理論上のみで考えた場合です。髪が健やかにいられる領域で還元さえできれば良さそうですが、PHが等電点域だとほとんどの還元剤が働きません。
膨潤しないため、薬剤の浸透が悪くなって長時間放置になりがちです。
そして処理剤が効きづらく、ドライコントロールとアイロンワークが縮毛矯正の全てになってしまいます。
毛髪診断を重要視し、お客様の髪質に合った薬剤選定を行いましょう。
よくある失敗例

縮毛矯正によくある失敗には、薬剤によるものとアイロンワークによるものがあります。それぞれの原因を見ていきましょう。
薬剤による失敗例
薬剤による失敗の原因として、還元不足または過還元がよくみられます。それぞれの髪の状態とともにご紹介します。
還元不足

初心者に多いのが、「還元不足」と「熱不足」の失敗です。
根元から中間にかけてピロッと浮いた毛がある状態は、還元不足によるもの。毛髪に対して適切な還元が行えなかった場合に起こります。
こういった状態の髪は再還元することで綺麗な状態に持っていくことができます。
過還元

還元しすぎると髪がひどく傷み、チリチリの状態になることも。
また、薬剤とアイロン熱のバランスが悪いときや、アイロンだけに頼りすぎたとき、プレスしすぎたときには「熱焼け過還元」といって髪の毛がライターで炙ったような状態になってしまいます。
こうなってしまうと髪の毛がタンパク変性を起こしている状態なので、直すことがとても難しいでしょう。
アイロンワークによる失敗例
続いては、アイロンの熱焼けまたは熱不足によって起こる失敗例をご紹介します。
アイロンによる熱焼け
縮毛矯正は薬剤とアイロンで100点をめざす施術です。薬剤が20点ならアイロンで80点をとって帳尻を合わせなければいけません。薬剤で90点とればアイロンは10点でよいということです。
しかしアイロンの熱の力を利用しすぎると、先程紹介した熱焼け過還元の状態になることがあります。仕上がり時は失敗したように見えなくても、リターンとして炙ったような状態になってしまうことも多くあるので気をつけましょう。
熱で傷んでしまっている状態なので、こちらも基本的に直すことが困難になってしまいます。
アイロンの熱不足
「還元不足」と同様に根元から中間に浮いた毛がある状態になってしまいます。アイロンワークで短い毛が拾えていない場合に起こりがちです。その他にもアイロンとツインブラシ、またはアイロンとコームの幅が広くなって狭められなかったときにも起きやすいでしょう。
こちらも再アプローチをかけることで綺麗な状態をめざせます。
縮毛矯正は薬剤と熱のバランスが大切ということを頭に入れておいてくださいね。
動画でより詳しい解説が視聴できます!
おすすめのレシピ構築

ここからは基本の還元剤の解説とともに、縮毛矯正を成功させるために知っておきたいレシピ構築をチェックしていきましょう。
基本的な還元剤の成分と強さ、働く場所
還元剤 | PHの値 | 働く場所 |
チオグリコール酸 | PH 10.4 | s1・s2 |
システイン酸 | PH 8.4 | s1 |
GMT | PH 7.8 | s2からs1 |
亜硫酸ナトリウム | PH 9.0 | s1 |
システアミン | PH 8.3 | アルカリ域ではs1、 中性・酸性ではs2 |
チオグリセン | PH 9.0 | s2>s1 |
スピエラ | PH 6.9 | ほぼs2 |
クセが強いハイダメージやエイジング毛を攻略するには、ただ酸性域やPHを下げればいいわけではなく、還元剤の特性やその還元剤の得意なPH領域で施術することが大切です。上記を用いてレシピを組み立てていけば、効率のいい還元剤とPHを把握することができるでしょう。
動画でより詳しい解説が視聴できます!
おすすめの組み合わせ
ここからは、初心者の方に参考にしていただきたいおすすめのレシピ構築をご紹介します。
〈s1アタック系〉髪の毛が元気なとき
チオ+GMT+スピエラ
これらを混ぜて中性域くらいで仕事をすると良い仕上がりになるでしょう。
〈s2アタック系〉エイジング毛やハイダメージ毛
チオグリセリン+GMT+スピエラ
PHを無理に下げずとも綺麗な矯正がかかりやすくなるレシピです。
美しい仕上がりにするには、ただPHを下げればいいわけではなく、還元剤の特性と扱い方が重要です。この点を理解できると、さらに効果的な薬剤選定が可能になりますよ。
薬剤に含まれるアルカリ剤の特性をチェック

美容師が使っているアルカリ剤は主に「MEA」「重炭酸系」「アンモニア」「アルギニン」の4種類があり、どのアルカリ剤を配合するかで作用が変化します。
それぞれの特性をチェックしていきましょう。
MEA
MEA(モノエタノールアミン)は塗った瞬間から反応が出るアルカリ剤です。
揮発しない分、刺激臭はありませんが髪に残留しやすいという特徴があります。
時間が経過しても反応し続けることも特徴です。
重炭酸系
塗ってすぐの反応は緩やかですが、ある一定の時間が経過すると尻上がりに反応が強くなります。MEAと同様に揮発しないため、髪に残留しやすいアルカリ剤です。
アンモニア
カラー剤にも配合されていることが多いアンモニア。
反応速度は早いですが、一定の時間が過ぎると反応が終わります。徐々に抜けていくタイプの揮発性で、髪への残留ダメージは少ないでしょう。刺激臭があることも特徴です。
アルギニン
エナジードリンクやサプリメントに入っていることも多いアルギニン。
アミノ酸の一種で、髪に残留してもダメージの心配は少ないでしょう。
アルカリ剤としての作用が弱く、反応はとても緩やかです。マンツーマンで施術している美容師は扱いやすいといえます。
以上4種類のアルカリ剤の中で、どれが良い・悪いということではなく、それぞれの特性を理解して頭に入れておくことが大切です。
例えば「MEAを使うからチェックはこれくらいでしよう」「アルギニンを使うからしっかり時間を置こう」といった考え方ができると、美しい縮毛矯正の仕上がりにつながりますよ。
まとめ
縮毛矯正を成功させるために知っておきたい還元剤の種類や薬剤選定の方法についてご紹介しました。薬剤を効果的に使うためには、お客様の髪質に合わせたPHと還元剤のバランスを整えることが大切です。効果の高い薬剤選定を行って美髪を実現させましょう。
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